子どもの心は“遊び”で語る ― プレイセラピーというもうひとつの言語
- ロンドン心理相談室
- 2025年12月17日
- 読了時間: 5分
子どもの心は、大人のように言葉で自分を説明してはくれません。「さみしかった」「怖かった」「我慢していた」——そんな気持ちを適切に言語化できる子どもはほとんどいません。けれど、子どもたちは何も語らないわけではありません。彼らには、彼らだけの“話し方”がある。そのもっとも典型的な形が、プレイ(遊び) です。
精神分析的な子どもの心理療法、いわゆるプレイセラピーは、まさにこの「遊びを心の言語として聴く」営みです。そこには、大人のカウンセリングとはまったく異なる、子どもの世
界だけが持つ奥深さがあります。
1. 子どもにとっての“プレイ”は、単なる暇つぶしではない
大人は「遊び」を日常の息抜きとして扱いますが、子どもにとっては違います。
遊びは、世界を理解し、自分を調整し、心を守るための方法です。
例えば、何度も同じ戦いごっこを繰り返す子がいるとします。大人から見るとただの「戦い」かもしれません。しかし精神分析的に見ると、それは負けることの不安、勝とうとする願望、攻撃性への罪悪感、力を持ちたいという希求など、複雑な心の動きを処理する試みかもしれません。
そうした「遊びの奥に潜む心理」を、そのままの形で受け取り、大切に扱うのがプレイセラピーです。
2. プレイセラピーは“心の翻訳作業”
プレイセラピーの部屋には、積み木、人形、車、動物フィギュア、ままごとセット、紙とクレヨンなどが置かれています。これは子どもの表現力(表現手段)を最大化するための“語彙” と言えます。
カウンセラー(心理療法家)は、子どもが遊びを展開する様子をただ眺めているだけではありません。その動き、配置、反復される場面、急に変わる物語、沈黙、躊躇——すべてをひとつの「心の言語」として聴き取っています。
そして、必要な場面でそっと言葉に変換してあげます。
たとえば、
何度も怪獣に襲われる人形を出し続ける子
破壊的に遊ぶ子
ひたすらに几帳面で完璧な世界を作ろうとする子
小さな赤ちゃん人形だけを大切に抱き続ける子
それぞれが、その子の経験や感情の“翻訳前の姿”です。
プレイセラピーは、その翻訳前の姿を、無理に言葉へ変換させずに、しかし確実に理解していく、という極めて独特な関わり方なのです。
3. 安全な部屋と“観察しすぎない”まなざし
プレイセラピーの部屋では、ただ遊ぶだけではありません。何よりも重要なのは、安心で、制御されながらも開かれた空間があることです。
子どもは、大人の表情や雰囲気を敏感に読み取ります。「何をすれば褒められるか」「怒られるか」「期待に応えられるか」を瞬時に察知し、その通りに動こうとします。
しかしプレイセラピーでは、そういった“読み取る必要”がありません。なぜなら、プレイセラピストは評価しないし、コントロールしないからです。
子どもが遊びを展開できるのは“この大人は自分をジャッジしない”という確信があるからです。
その意味で、プレイセラピーは単に「遊ぶ時間」ではなく、子どもが“自分の心そのもの”として存在できる、きわめて貴重な空間と言えます。
4. プレイの中で再現される「家庭のドラマ」
精神分析的な見方の特徴のひとつは、子どもは今も昔も「関係の中で生きている」という前提を置くことです。
そのため、遊びにはしばしば家庭で起きていることが象徴的に現れます。
例えば、
いつも忙しそうな母親を人形に投影し、子ども人形が「遊んでよ!」と言い続ける
“悪い子役”と“いい子役”を分けて同じ人形に演じさせる
いじめる側・いじめられる側を繰り返す
ままごとで“完全にしっかりしたお母さん”を自分が演じ続ける
これはいま子どもが感じている心の負荷や葛藤を表現している可能性があります。
こうした表現に丁寧に寄り添い、“その子が何に傷つき、何を守ろうとし、何を理解しようとしているのか”を一緒に見ていくのがプレイセラピーです。
5. 変化は「遊びの変化」として現れる
プレイセラピーの魅力のひとつは、子どもの変化が“遊びの変化”として目に見える形で現れることです。
たとえば、
戦いごっこばかりだった子が、人形たちに役割を与えはじめる
悲しみを避けていた子が、泣いている人形の場面を自分から作る
破壊的な遊びが、少しずつ創造的になっていく
ずっと“いい子役”ばかり演じていた子が、いたずらをできるようになる
これは、子どもの心が安全を感じ、感情を整理し、より柔軟に世界を扱えるようになっているサインです。
変化は、決して「大人のように話せるようになること」ではありません。むしろ、
その子らしい遊び方の中に、自由と統合が増えていくこと。それがプレイセラピーにおける癒しのかたちです。
6. なぜ、プレイセラピーは“魅力的”なのか
それは、言葉にできない苦しみまで扱えるからです。
大人であれば、思考したり語ったりすることで、自分を理解できます。しかし子どもにはそれが難しい。
精神分析的なプレイセラピーは、子どもの心の深部にアクセスするための自然な入り口を提供してくれます。
評価でも、教育でも、指導でもない。“その子がその子らしいやり方で、自分を取り戻していくプロセス”を尊重し、そこに寄り添うのがこの療法なのです。
プレイセラピーの部屋で、子どもはただ遊んでいるように見えるかもしれません。しかし、その遊びは心が自分を整理し、世界との関係を縫い直し、未来をつくるための創造的な営みなのです。
子どもの心は、言葉を超えたところで語られる。
その声を“遊び”を通して聴くこと——それがプレイセラピーの本質であり、魅力なのです。
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