アダルトチルドレンと “親との関係の再編集”――過去は書き換えられないけれど、読み方は変えられる
- ロンドン心理相談室
- 2025年12月17日
- 読了時間: 4分
1. 「親の物語」に囚われるということ
アダルトチルドレンが大人になっても生きづらさを抱える背景には、“親との関係が心の内側に生き続けている” という事実があります。
子どもにとって、親の態度は世界そのものでした。親が忙しかったり不安定だったりすると、子どもは世界を「自分の価値」によって説明しようとします。
「気を使えば安心してもらえる」
「迷惑をかけたら嫌われる」
「自分が悪いから怒られたのだ」
こうした“物語”は、生き延びるために必死につくられたものであり、大人になっても自分を縛り続けるレンズになります。
2. 再編集とは、親を許すことでも美化することでもない
精神分析でいう再編集は、過去を都合よく塗り替える作業ではありません。
むしろ、
当時何が起きていたのか
そのとき自分はどう感じていたのか
どんなふうに耐え、生き抜いたのか
これらを改めて“そのまま”見つめ直す作業です。
再編集とは、昔の自分が生き延びるために作った物語を、いまの自分の視点で読み直すこと。それは冷静になるというよりも、“凍っていた感情”を少しずつ解凍していく作業に近いものです。
3. 子どもがつくった“その場しのぎの仮説”から自由になる
子どもの心は柔らかく、そして残酷なほど従順です。親との関係が安定しなければ、世界を説明するために、自分に責任を引き受けてしまいます。
「自分のせいで親がつらそうなのだ」「頑張れば愛されるはずだ」「甘えると見捨てられる」
これらは、幼い心が世界に整合性を持たせるために作った“仮説”でした。しかし、その仮説を大人になっても持ち続けると、人生が過剰に苦しくなります。
再編集とは、この仮説を手放し、より現実的で成熟した視点で自分の過去を理解し直すことなのです。
4. 再編集のプロセスで起こる変化
再編集は段階的に進み、派手な劇的変化ではなく、“じわりと効いてくる変化”として現れます。例えば――
(1) 過去を歪めずに語れるようになる「大したことではない」とごまかさず、「つらかった」と言えるようになる。
(2) 親の限界を冷静に見られる責めるでも許すでもなく、親の弱さ、未熟さが現実として理解される。
(3) 当時の自分の感情が再び感じられる涙が出てくることもあるし、怒りとして出てくることもある。それが“当時の自分”が現在の自分に届いた証です。
(4) 内なる親の声が弱まり、自分自身の声が強くなる「頑張らなければならない」「人に迷惑をかけてはいけない」そんな自動反応が少しずつ弱まり、代わりに“自分のニーズ”が聞こえ始める。
これらが積み重なっていくと、日常の選択にしなやかさが出てきます。
5. 再編集の目的は、親との関係を整えることではない
精神分析のゴールは、親を許すことでも、親との関係を修復することでもありません。
それは場合によって結果として起こることもありますが、目的ではありません。
本質的な目的は、親との関係を絶対視し続けていた自分から自由になること。そして、自分を中心に人生を組み立て直す力を取り戻すこと。
過去の影響力が弱まり、親は親、自分は自分、と自然に境界が引き直されていく。
再編集とは、
「過去を変えることはできなくても、過去の影響から自由になることはできる」という、人間の心の可能性そのものを示す作業なのです。
6. 最後に――“生き直し”は静かに始まる
アダルトチルドレンというテーマは、しばしば重く語られます。しかし精神分析は、こう問いかけます。
あなたは、どんな物語で生きてきたのか。そしてこれから、どんな物語を生きていきたいのか。
再編集という作業は、派手でも劇的でもありませんが、確実に“生き直し”へとつながっていきます。
過去は書き換えられないけれど、その読み方は、いつからでも変えられる。
その静かな革命は、あなたの中で確かに始めることができます。
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