アダルトチルドレンー変化のあとに、静かに立ちあがる「自分という感覚」
- ロンドン心理相談室
- 2025年12月17日
- 読了時間: 4分
アダルトチルドレンを精神分析的に理解し、その癒しのプロセスを見つめると、一つの疑問が自然と浮かんできます。
「では、変化のあとには何が起こるのか」
心のしこりがほどけ始め、防衛が少しやわらぎ、過去と現在の切り分けが進む――
この段階を越えると、人はゆっくりと“変化の後”の領域へ足を踏み入れていきます。しかしその領域は、多くの人が想像するような劇的で華やかな世界とは限りません。
むしろ、そこにあるのは「自分という感覚が、ようやく手触りを持ち始める時間」といった静かな景色です。
1. 空白が訪れることがある
変化が起こると多くの人は、新しい自分がすぐに動き出すと期待しがちです。しかし実際には、変化の直後ほど一種の「空白」に出会うことがよくあります。
長年続けてきた生き方や対人パターンは、たとえ苦しいものであっても人を支えていた“枠組み”でした。
それらが少し弱まると、支えが減ったように感じるのは自然なことです。
この空白は、後退でも停滞でもありません。むしろ、新しい支えを内部に作り始める前の、必要な余白として現れます。
2. 選択の幅が広がるが、同時に戸惑いも増える
かつては「自動的に」繰り返していた行動や感情反応が、少しずつ意識化されてくると、行動の選択肢が増えていきます。
たとえば、
無理に相手に合わせる以外の対応が見える
不安や緊張の理由を説明できる
感情をため込まず、表現することが可能になる
こうした変化は、確かに健全な方向です。しかし同時に、選択肢が増えるほど、戸惑いや迷いが強く出ることもあります。
これまでの自動反応を手放すということは、“新しいやり方を試す責任”を負うことでもあるからです。
変化の後に戸惑いが訪れるのは、成長の一部としてごく自然な現象です。
3. 対人関係が微調整されていく
内面が変わると、外の人間関係にも徐々に変化が生じます。
依存的だった関係が、少し距離を持てるようになる
優しさの名を借りた過度な自己犠牲が減る
境界がゆるかった関係が、適度に整えられる
これらの調整は、必ずしも周囲から歓迎されるとは限りません。
ときには
「最近冷たい」「前と違う」
と言われることもあります。
しかし精神分析の視点から見れば、これは“関係が現実の姿を取り戻しつつある”というサインです。変化した自分にふさわしい距離感が外界にも反映されていく過程なのです。
4. 自分の感情が「情報」として扱えるようになる
変化のあとで最も大きな特徴は、感情が以前ほど脅威ではなくなる点です。
怒り、悲しみ、不安、嫉妬――どれも排除すべき敵ではなく、自分の状態を知らせる“情報”として扱えるようになります。
これにより、
感情の波に飲み込まれにくくなる
状況と内面を区別できる
必要なときに自分を守る行動が取れる
そんな新しい心の使い方が可能になります。
これは、幼い頃には難しかった“心理的な自己調整”が大人として再構築されていくことを意味しています。
5. 「自分でいても大丈夫だ」という感覚が生まれる
変化のあとに訪れる最も深い変化は、きわめて地味でありながら、人生全体に安定をもたらすものです。
それは、
「自分でいても大丈夫だ」
という、静かな確信です。
これは大声で語られるような種類の感覚ではありません。しかし、日常の小さな選択や振る舞いに自然な形でにじみ出ます。
誰かの期待に過度に応えようとしない
相手の気分に引きずられすぎない
自分の願いを検討できる
必要に応じてノーと言える
それでも関係が壊れないと理解できる
こうした“目立たない変化”が積み重なることこそ、精神分析における本質的な癒しの証拠となります。
■ 最後に
変化の後に訪れるものは、華やかでも、劇的でもありません。けれど確かに、生活の手触りが変わり、選ぶ言葉や行動、対人関係の質など、人生の各所に新しい整合性が生まれます。
精神分析が目指す変化とは、「過去を忘れる」ことではなく、「過去に押しつぶされずに今を生きられる」ことです。
そのために必要なのは、大きな決断でも、派手な変身でもなく、日々の中で少しずつ積み上がる心の内部の構成の変化です。
変化の後に起こるのは、その静かな積み重ねがもたらす**“自分という感覚の回復”**なのです。
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