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なぜ、夢を見るのか③ ― ウィニコットの精神分析から考える

  • ロンドン心理相談室
  • 2025年12月17日
  • 読了時間: 3分

夢というのは不思議なもので、眠りの最中に見ているときより、朝、目を覚ました瞬間のほうがその意味がじわりと胸に広がることがあります。どこか懐かしいような、でも少し寂しいような、説明のつかない余韻。


ウィニコット(1896-1971)――「ありのままの自分で生きること」をテーマにした精神分析家は、この夢の余韻に、人間の深い営みを見ていました。



■ 夢は「本当の自分」が息をする場所

ウィニコットの理論の中心には、“True Self(真の自己)”“False Self(偽りの自己)”という概念があります。


私たちは日中、社会に合わせ、誰かに合わせ、時に「こうあらねば」という殻の中に身を置きます。それは生きるための知恵でもあるけれど、本当の気持ちが押し込められてしまうと、心がどこか窮屈になってしまう。


ウィニコットは、夢を 「真の自己がひそかに息をする場所」 と考えました。


日中、抑え込まれていた本音や素朴な衝動、幼い頃のままの気持ち――それらが眠りの中でゆっくり顔を出し、本当の自分の輪郭を取り戻していくのです。



■ 夢は「遊ぶ力」から生まれる

ウィニコットが特に大切にしたのが “遊ぶ(play)” という概念です。


赤ん坊が安心できる母親の腕の中で、世界と出会い、自分を広げていくように、大人になっても私たちは「安心できる空間」の中でしか創造性を発揮できない。


夢を見るという行為は、まさにこの“遊びの空間”が心の中に確保されている証拠だとウィニコットは考えました。


夢の世界は、現実でもなく完全な想像でもない、その中間にある“遊び場”なのです。そこで私たちは、抑え込まれていた感情をそっと動かし、試し、形を変え、もう一度受け止め直す。


まるで幼い頃にやっていた、おままごとや積み木遊びのように。



■ 心が「支えられている」とき、人は夢を見る

ウィニコットが人生を通して訴え続けたのは、人がのびのびと存在するためには “holding(抱える・支える)” が必要だということでした。


母親が赤ん坊を抱くように、誰かに、あるいは環境に“支えられている”と感じるとき、心は安心し、夢を見る力が働きます。


逆に、心理的に追い詰められ、安心の感覚が失われてしまうと、夢は乏しくなり、心の創造的な動きが止まってしまう。


つまり、夢を見ることは、「心がどれだけ安心できているか」を示すひとつの指標でもあるのです。



■ では、なぜ私たちは夢を見るのか

ウィニコットの視点から言えば、その答えはとても静かで、やさしいものになります。


私たちが夢を見るのは、心が自分自身を取り戻す時間を必要としているから。


日中、社会に合わせるために少し硬くなった私たちが、夜になるとふと緩み、遊び、ほどけ、呼吸を取り戻す。


夢は本当の自分が、もう一度自分を感じ直すための小さなゆりかごのようなものです。

だから夢は、時に奇妙で、時に切なく、時に救いのようでもあるのだと思います。それは、心が“自分を生きる力”を整えようとしている証なのです。

 
 
 

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