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なぜ、夢を見るのか④ ― ビオンの精神分析から考える

  • ロンドン心理相談室
  • 2025年12月17日
  • 読了時間: 3分

人は眠りに落ちると、日中では捉えきれなかった感情や記憶がふわりと浮かび上がってきます。夢の中には意味の分からない光景もあれば、妙に胸を締めつける瞬間もある。目覚めたあとに残るあの不思議な余韻は、一体どこからやってくるのでしょうか。


精神分析家ウィルフレッド・ビオン(1897-1979)は、この「夢」という現象に対して、フロイトとはまた別の角度から光を当てました。



■ 夢は「考えるための器官」

ビオンの考えでは、夢は単なる夜の物語ではありません。もっと根本的な、「考えるという心の働きを生み出すための装置」だというのです。


私たちは日中、さまざまな刺激を受け取ります。言葉にならない怒り、不意に起こる不安、よく分からない重さ。ビオンはこうした“生の感覚”を β(ベータ)要素 と呼びました。β要素はそのままでは処理できず、ただ心の中に重く沈んでいくものです。


しかし、眠りにつくと心の仕組みがゆっくり動き出し、このβ要素を“噛み砕いて”意味のあるものへと変えていきます。これを α(アルファ)機能 と呼び、ここで生み出される“消化された心的素材”が α要素


夢とは、このα機能が働くときに生じる、いわば「心が考える練習をしている光景」なのです。



■ 夢は「重たい感情」を変換する

ビオンの理論の中心にあるのは、「人はそのままでは処理できない感情を抱えたとき、夢がそれを“考えられる形”にしてくれる」という考え方です。


たとえば、理由もわからず胸がザワつく夜があるとします。そのままでは不安が暴れ回り、眠りも妨げられてしまう。でも夢が働くことで、その不安は象徴や物語へ姿を変え、心の中で整理されていく。


奇妙な夢を見て目覚めたあと、なんとなく少し気持ちが軽くなっているのは、夢が心の消化を手伝ってくれていたからかもしれません。



■ 「夢を見ることができない」状態とは

ビオンは、夢を見ることが心の健康に深く関わると考えました。


もしα機能が十分に働かないと、人はβ要素――つまり処理されていない不安や怒り――に圧倒されてしまいます。するとその人は「夢を見ることができない」状態に近づいていく。眠っても夢として体験されず、ただ不安のかたまりが心の中を暴れ回るような感覚になる。


ビオンが治療の中で重視したのは、この“夢を見る力”が回復することでした。夢を見ることができるというのは、心が自分の感情を受け止め、形にし、考える力を取り戻している証拠なのです。



■ では、なぜ私たちは夢を見るのか

ビオンの視点から言えば、「夢を見ることは、心が自分自身を理解しようとする営みそのもの」だと言えるでしょう。


夢は、日中抱えきれなかった思いを、ひとつずつ丁寧にかたちにしなおす作業です。言葉にならなかった悲しみが物語に変わり、処理できなかった怒りが象徴へ変換され、心はようやく“考える”という行為に辿りつく。


だから夢は、どこか懐かしく、どこか切なく、そして時に救いのようでもあるのかもしれません。

 
 
 

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