なぜ、夢を見るのか①― フロイトの精神分析から考える
- ロンドン心理相談室
- 2025年12月12日
- 読了時間: 3分
更新日:2025年12月19日

夜、布団に身を沈めて意識がほどけていくと、どこかでスイッチが入ったように、まったく別の世界が立ち上がることがあります。昨日の出来事と関係があるようで、まったく関係がないようでもある。目覚めてしばらくは、その世界の余韻が身体のどこかに残っている――そんな経験は誰にでもあるはずです。
そもそも私たちは、なぜ夢を見るのでしょう。
この素朴な問いに真正面から向き合った人物が、精神分析の創始者ジークムント・フロイト(1856–1939)でした。彼の代表作『夢判断』(1900年)は、夢の不可思議さに理論で切り込んだ、当時としてはかなり挑戦的な書物です。
■ 夢の中心には「願望」がある
フロイトは、夢を“こころの落書き”とは捉えませんでした。むしろ、夢こそが無意識の声を最も率直に語っている、と考えたのです。
彼が言うには、夢とは「願望充足」を中心に作られている。日常生活の中で抑え込まれていたり、本人ですら気づいていなかったりする欲望が、眠りのなかでひょっこり顔を出す。しかしその欲望があまりに生々しい形で表れると、寝ている本人が驚いて目を覚ましてしまう。そこで無意識は、欲望を象徴や比喩に“変装”させて夢に登場させる。
だから夢は、あれほど奇妙な形になるのだ――フロイトの説明は、どこか物語のタネ明かしのようでもあります。
■ 欲望はなぜ変装するのか
フロイトの考えでは、心の中には大きく二つの力が働いています。
欲望を押し出してくる衝動的な力
それを抑えようとする検閲の力
眠っているとき、この検閲が弱まるので、隠れていた欲望が表に出てきやすくなります。しかし検閲が完全に消えるわけではなく、欲望はその網の目をすり抜けるために、象徴や暗号をまとって夢の中に潜り込む。だから夢は、どこか意味深で、よくわからない比喩に満ちているのです。
■ 夢は眠りを守るためにも存在する
フロイトは『精神分析入門』(1917年)で、夢にはもうひとつ重要な働きがあると述べています。
それは 「眠りを守る」 ということ。
たとえば外で物音がしたり、布団の中で身体が少し苦しくなったりしたとき、本来なら目が覚めてしまいそうな刺激が夢の中に取り込まれ、物語として処理される。私たちが多少の雑音では起きないのは、夢がそれらをうまく“編集”してくれているからだというのです。
夢はただの幻想ではなく、睡眠を維持するための仕組みでもある。そう考えると、夢の役割が少し身近に思えてきませんか。
■ では、なぜ夢を見るのか
フロイトの立場から言えば、夢を見る理由とは、「心の深い場所が、私たちに必要な物語を紡いでいるから」ということになるでしょう。
日中の私たちは、社会のルールや自分で決めた役割の中で動いています。けれどその裏側には、抑えられた感情や言葉にできなかった思いがたくさん眠っている。夢は、それらが静かに息をするための場所なのかもしれません。
夢を思い返したときの妙な懐かしさや、説明できない感情のざわめきは、そうした深層の“もうひとりの自分”からのメッセージなのだと思います。
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